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ポケダン(探検隊)チーム『シノギリハ』・『マシュマロ』・『ひだまり』・『カクテル』のネタを殴り書くそんなブログ。
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零士、遭遇する



 *****
 梅雨も明け、夏の気候に変化したこの世界は。空から注がれる陽は強く照り差し、気温も着々と上がっている模様。夏の暑さでうなだれる人は少なくなく、ある者は木陰に佇む事でやり過ごし、またある者は喫茶店でのんびりと冷えた飲み物を口に含んでいた。
 自分もまたその暑さにうなだれている者の一人だろうが、恐らく他の誰よりも異質である事だろう。癖のある漆黒の長髪に、肌の露出がまるでない着物姿、その腕の中に抱えられている白米の袋(総量10kg)。
(日除けとなるものも何も持たず出たのは間違いでしたかね……)
 米を抱えて街路を歩く男・月ノ瀬零士はそう思いながら、汗を流しながらもヨタヨタとよろめきつつ自分が暮らすアパートまで食糧の米を運んでいく。その様子は周りからすれば気味悪さがあったのだろうか、まるで道でも譲るかのように彼から距離をとっていた。

 ある一人を、除いたら。

「お兄さん重くない? 手伝おうか?」
 それは何とも明るく、軽い調子で放たれた一言。声がした方向に目線を向ければ、そこには一人の少女が立っていた。
 黒の長髪に赤の瞳、黄土を基調とした服装に身を包み、肩に学生カバンを掛けたその体躯は零士と比べても大分小柄な印象を受ける。もっとも、零士自身の背丈が180あるため、彼を比較に使っても実際に小柄なのかどうかは微妙な所なのだが。
 そんな少女はニコニコと笑みを浮かべたまま零士の顔を見ている。対する零士は……相手が女性である事を認識した瞬間、ただでさえ血色が良いとは言えない顔が更に青くなり、明らかに怯えた表情を浮かべ
「て……丁重にお断りします!」
 その一言と共に、帰路への足を速めていった。
 テクテクテクテクと歩を進めていく中、ふと零士は先程の少女に対して疑問を抱く。
(……何故あの子は学校もないのに学生鞄を持っていたんだ……?)
 彼女はパッと見た感じでは高校生のように思える、が……今は7月の下旬、この頃となると中高生は大半が夏休みの筈だ。部活でもあれば不思議ではないが……見た限りでは部活で学校に通っているという雰囲気もなかった。
 ならば、あの鞄はこの時期には必要ない筈。なのに何故?
「お兄さんのお家そこそこ距離あるねー、これはもう家に戻ったらシャワー浴びた方が良いかも」
 その疑問を思考する余裕も、その一言で容易く掻き消された。恐る恐る声がした方に目を向けると、先程と変わらない笑顔を浮かべて隣を歩く少女の姿が。
「――――ッ!!?」
 嫌な汗が噴き出し、慌てて零士は先程よりもまた帰路に着く足を速める。少女もまたそれを予想していたのか、足を速める。
「待ってよー。何で逃げるのー?」
「そういう貴方は何故ついてくるのですか!」
 ついてくる少女に対して、零士の精神にもはや余裕は見られない。
「汗かいて身体中ベタベタなんだもん、シャワー浴びさせてよー。」
「家に帰って浴びてください!!」
 零士の質問に対し、少女は変わらぬ調子で返していくが、もっともな意見を零士も返していく。少女自身、さりげなく襟元でパタパタと扇ぎつつ胸元をアピールしていたが、零士はそれを見ていられるほど落ち着けていない。
「サービスするから~」
「さ、サービスって……いったい何のサービスですかぁああぁあっ!!!」
 少女の一言にとうとう零士は叫ぶ。
 しかし少女は引くことなく笑顔のままついていき、そのまま零士の家まで訪問する事となった。



「ふぅ、さっぱりした~」
「……本当にシャワーまで頂くんですね、貴方……」
 肌に浮かんでいた汗を綺麗に流せたのか、先程よりもまた明るく、満面の笑みで零士に話しかける。服装は先程と変わって比較的私服のような印象を覚えるもので、首元にはタオルがかかっている。
 零士はというと、さきほどよりもまたどんよりと暗いオーラを纏いながら彼女の言葉を聞いていた。ちなみに服装も髪型も、先程と変わらずだ。
「それで……、……えー と……」
「あ、十色です。口無十色」
 特に名前も聞いてなったため言葉に詰まる零士に、少女こと口無十色は己の胸に手を当てながら自分の名を名乗った。
「その……口無さんは、何故あんな所に……? 見た所高校生くらいですし、今の時期は夏休みでは……」

「ん~…じつはぁ……」
 口元に指を添え、考える素振りを見せた後、十色は一言で事情を纏めた。

「お母さんとケンカして現在家出中で、援助交際の相手を捜してたんです♪」

 軽い調子で言われたものだからか、真向かいより若干右に座っていた零士の表情はぽかんとしている。が、正気を取り戻したのか頭を数回横に振り、コップに注いだ水道水を一気に飲み干すと、ようやく口を開いた。
 ただ一言

「お家に……帰りましょう?」

「嫌です♪」
 零士の言葉に、十色は満面の笑みを浮かべて拒絶する。
「いや、ですが……いくらケンカしたのがきっかけと言っても、その 親御さんは心配してると思――」
「帰れないんですよ」
「え……?」
「“帰りたくない”というのもあるんですけど、“帰れない”んですよ。家に」
 そう発言した口無十色の表情は、先程の明るさとは一転し、とても寂しげな印象を抱いた。
「どれだけ帰ろうとしても、誰かに連れてってもらっても。家に、帰れないんです。」
「……っ!?」
 「それはまるで……」思わず出てしまいそうになった言葉を、零士は無理矢理に飲み込んで押し留める。家に帰ろうと思っても家に帰れない。それを可能に出来るものを、零士は知っている。


 “呪い”


 どれだけ非科学的な事でも起こしかねないイレギュラーな要素。真っ先にそれを浮かべる一般人はそうそういないだろうが、……生憎この月ノ瀬零士もまた呪いに縁のある人物であるため、真っ先にその言葉が知識としてあった。
 しばし続く沈黙に耐えられないのか、十色はキョロキョロと部屋を見回す。殺風景としか言いようの無い空間には低めのテーブルを除いて存在したのは――
「へぇー。結構本がいっぱいある……、読書家なんですねぇ~」
 部屋の片隅にある棚いっぱいに収納された書物に、十色は声を上げる。
「え、それは……その」
『月見先生~』
 入り口に設置されたインターホンの音と、若い男性の声。鍵を掛けた記憶のない扉は容易く開き、トタトタと軽く足音が数秒。
「お邪魔しますよー、っと……」
 そう言って軽いノリで部屋に訪れた男は、十色の姿を見てギョッとする。
「月見先生、こちらのお嬢さんは――」
「はじめましてっ 本日より夏休みの間住み込みのアシスタントとしてお世話になります、口無十色です!」
「え?」
「はい?!」
 「誰ですか」と男が言う前に、十色は勝手な肩書きで自己紹介をした。その言葉に男はキョトンとし、零士は顔を青くし彼女の方を見る。言った本人はニコニコと笑みを浮かべ、男の顔を見つめている。
「月見先生の……アシスタント……? それも女性……女性恐怖症と伝わっていた先生に、女性のアシスタントが……」
 ブツブツと男はつぶやいた後、十色を見る。彼女を見る男の目は爛々とし、一言の感想を述べた。

「素晴らしい!!」

「……はぃ?」
 男の一言に、零士は嫌な汗を感じながら反応する。
「あの月見先生がっ 女性恐怖症で担当は男性でと頼み込むほどのあの月見先生が! 女性の、それも住み込みのアシスタントを雇うなんてっ 何と言う進歩だ!!」
 そう言って男はガッツポーズを決め込む。
「十色ちゃんだっけ? いっそ夏休みの間とは言わず、一生住み込んで良いから! 先生の女性恐怖症を克服したげてよ!! 担当編集からのお願いっ!!」
「――? ?? ?!」
 十色の両手を取り、頼み込む男(というか担当編集)の姿に零士は困惑し、思考が停止していく。
「今日は打ち合わせを考えていたけど、収穫あったから良いや★ じゃ。編集長にはちゃーんと伝えておくから、ヨロシク!」
 入ってきた時と同じく軽いノリで、担当編集は帰っていく。零士の言葉を何一つ聞かずに、帰っていく。
 思考が停止し、呆然としていた零士の前で「適当にアシスタントとか言ったけど、結構通じたなー」と十色はのたまう。
「それにしても『月見先生』とか『担当編集』とかあったけど、何をやっている人なの?」
「…………小説を少々……」
「小説家さん? お名前は何て言うの??」
「……月ノ瀬零士、作品においては、月見雨令……」
 もう反論する気が起きないのか、零士は淡々と機械的に質問に答えていく。それに対して十色は「そっか」と軽く相槌を打った後ニコリと笑い、言う。

「これからヨロシクね、零士さん♪」

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 十色さん(狐笛様宅)お借りしました!
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幼い頃からの任●堂っ子。
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