ポケダン(探検隊)チーム『シノギリハ』・『マシュマロ』・『ひだまり』・『カクテル』のネタを殴り書くそんなブログ。
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ユズリハの話・シリアスパート
*****
8月中旬。
暑い日差しが照りつけるこの次期。大学生であるユズリハ・グローカスは、怪訝な面持ちで一つの封筒を見つめていた。
――春学期成績通知書。
期末試験も終了してから暫く、このように自宅に通知書が届いたという具合である。ユズリハは硬い表情のまま慎重に封を開け、中身を確認する。明朝体で記された成績は“優”の字で殆ど埋められており、経営学のみ“秀”の字が表記されていた。
ひとしきり成績を確認した後、ユズリハは得意げな表情で息を吐く。
「経営学の“秀”を除いては皆“優”か……フン、当然だな」
余裕の表情を浮かべ、ユズリハは通知書を片手に私室を出た。成績を確認したら両親に報告するのが彼女の長年の習慣なのだ。極力廊下を走らず、だが足早に両親の部屋に向かう。
「父上、母上。失礼します」
コンコンとドアを数回ノックし、扉を開け、ユズリハは明るい表情で両親の元を訪れた。父は多数の新聞を広げ内容を把握し、母はそんな父の向かいで紅茶をすすっている。
「どうしたユズリハ」
「春学期の成績通知書が届きまして、こちらも確認出来たため報告を……」
「まぁっ それで、どうだったの?」
パッと笑みを浮かべて母はユズリハの方に顔を向ける。父も、新聞に向けられていた視線をユズリハに移していた。
「はい。全体的に“優”で埋められ、経営学は“秀”を取りました。良・可・不可等は無く、受けた授業は全て単位を修得致しました。こちらが実物の通知書です」
そう言って彼女は父に成績通知書を手渡す。手渡されたそれを、父はじっくりと確認する。30秒ほど経過しただろうか、父は視線を成績通知書からユズリハに移し、口を開いた。
「……そうか」
「この程度しかいけなかったのか」
「――え…?」
父の言葉に、ユズリハの表情が固まる。
それに畳み掛けるかのように、母も苦笑しながら口を開いた。
「本当。“秀”を一つしか取れなかったなんて……“優”で満足してるなんてダメよぉ?」
「あぁ、全て“秀”を飾るとかでなければ認められるものではないよな」
「クスノキならいけたでしょうねぇー」
「だな」
『はははははは』
両親が会話をしてる中、ユズリハは引きつった笑みを浮かべて彼等に言う。
ズキズキとした頭痛を堪えながら。
「……そ、そうです、よね……このレベルで満足していたら、いけませんよね。また、私室に戻って……勉学に励みます。――失礼、致しました」
極力二人に背を見せない形をとりながら、彼女は部屋から立ち去った。流れるようにそのまま、足音を立てずに歩を進め、私室に戻り、勉強机に向かう。
教科書を広げ、ルーズリーフを出し、シャープペンシルを手に取るが、そのシャープペンシルに芯が入っていない事に気づく。ケースを確認するが、それも空っぽ。
「あ……」
「芯、買ってこないと」そう言ってユズリハは貴重品を片手に席を立った。
窓越しに見える空は先程までの晴れとは打って変わり、陰りを見せていた。
行きつけの文具店に向かう道中の足取りは重く、時間も長く感じられた。視界に映る景色もコレまでの鮮やかさはなく、モノクロに見える。
ポツ、ポツと、冷たい感触を覚える。空を仰げば、灰色の空からポツポツパラパラと雨が降り注がれていた。時間を王ごとにその勢いは増し、「何? 雨?!」「うわー傘持ってきてねぇよ俺」「サイアク~」といった周囲の会話がユズリハの耳にも届くが、彼女にとってはどうでも良かった。
立ち止まっていた彼女の脳裏に、親の言葉が響く。
「クスノキならいけた」
親の口から出たのは、とうの昔に逝去したユズリハの兄の名前。雨脚が強まる中、ユズリハは視線を落とす。
「――クスノキなら、か……」
彼女の口から出た言葉は、とても小さく、聞き取りにくいもので。体は雨に濡れて冷えていくのに、頭はズキズキと痛み熱を感じられる。
「クスノキ、なら――」
思考は霞み、その表情も虚ろと化していく。
不意に、降雨の感触が途絶えた。同時に感じたのは、一つの気配。
「何やってんだ?」
ユズリハに声をかけたその人物は、彼女が最も会いたくなかった人物で。
その“男”は黒の傘と買い物袋を提げ、彼女の後ろに立っていた。
「まったく、傘も差さないわ屋根のある所へ避難しないわ、風邪引いても知らんぞ」
そう言って、ユズリハに声をかけた男……龍宮槐は自分が借りているアパートの一室にユズリハを連れて行く。彼女に表情は無く、その様子に眉をひそめながらも槐は彼女にタオルを渡した。
「それ使って髪を拭いとけ。あと上着、ずっと着けたままじゃ余計に冷えるだろうからハンガーに掛けとくぞ。」
「……あぁ……」
槐の言葉に、ユズリハは素直に応じて彼に濡れたジャケットを手渡す。いつもの彼女なら「断る」「貴様の言葉に応じると思うな」と言っている所なのだが。その反応に違和感を覚えながらも、槐は渡されたジャケットをハンガーに掛け、ついでに自分のコートも掛けていく。その間、ユズリハは渡されたタオルで自身の髪を拭いていく。
「で? あの雨の中傘も差さずに何であんな所で突っ立ってたんだ?」
「――考え事をしていた」
「何を?」
「……貴様には関係の無い事だ」
槐の質問に答えるユズリハの声は小さい。掛け合い自体はいつも通りなのだが、その反応が弱弱しい印象を覚え、槐は軽く息を吐く。
「そういえば、成績通知書が届いたな。どうだった?」
彼の何気ない一言に、彼女の体がビクリと反応を示す。
「――成績が関係してるのか?」
ユズリハの反応を見て槐は言う。その言葉にもまた「貴様には関係の無い事だ」と言って、彼女は顔を背けた。
沈黙が続く。程なくして、ユズリハがぼそぼそと口を開いた。
「……“秀”が、一つだけ……」
彼女の言葉を、槐はただ聞く。
「……それ以外は、皆“優”だった」
「――? 一般的には充分優秀な成績じゃないか? それ」
ユズリハの言葉に、槐は呆れた調子で返す。確かに、一つだけの“秀”を除いて全て“優”というのは、一般的には充分なものだろう。
「貴様なら……この程度で満足するのだろうが、私は後にグローカス・グループを纏め上げなければならぬ存在だ。この程度で親に認められるほど緩くは無い」
「つまり、親が満足するような成績になれずあそこで意気消沈してたってワケか」
槐は端的に状況を理解する。その言葉に対し、ユズリハは顔を赤らめながら反論する。
「い……っ 意気消沈などしておらんわ! ただ、その……自分の不甲斐なさに悔しさを覚えて、そのっ」
「あぁ、うん。無理して反論しなくていいぞ」
ユズリハの反論を、槐は軽く聞き流す。2個のマグカップにポットで淹れた緑茶を注ぎながら、槐は言う。
「つーか、それで満足しない親も親だろ。下手に期待しすぎると子供にプレッシャーがかかる事を知らないのか?」
「……プレッシャー云々は関係ないだろ」
「あるよ」
片方のマグカップに口をつけながら、槐はユズリハにもう片方のマグカップを差し出すが、ユズリハは拒否を示すために頭を振る。
「現にアンタ、親の話になるとちょいちょい頭痛を訴えてるじゃねーか」
槐の言葉に、ユズリハは固まる。彼の視界には映っていないが、彼女の相棒である光球は、ユズリハと槐を交互に見つめており、不安な雰囲気を醸し出している。
「いきすぎた期待に押し潰されて、その頭痛が発生してるんじゃ――」
「違うッ!!」
ユズリハの咆哮と同時に、彼女に差し出されていたマグカップが縦に壊れた。
持ち手と繋がってなかった部位はガシャンと音を立てて割れ、満たされていた緑茶はフローリングの床にぶちまけられる。ユズリハの手には鋭利な剣が携えられ、荒い息を吐きながら彼女は槐を睨みつけていた。
「違う……違う……っ」
その手は、カタカタと震えながらも剣の柄をしかと握り締めている。自分の正面に切っ先が向けられているわけなのだが、槐は表情を変えずにしゃがみこみ、マグカップの欠片を回収し始める。
「……義務なんだ」
ユズリハの言葉に、槐は眉間に皺を寄せる。剣を握り締める彼女の顔は真剣で。
「両親は……クスノキを、理想の子供を求めているんだ……。」
「――“クスノキ”?」
「私はあの方達の子だ。両親が望んでいるのならば、それに応える必要がある」
何故私はこんな奴に、自分の事を話しているのだろうか。ズキズキと苛まれる頭痛に耐えながら、ユズリハは自分の言葉を紡いでいく。
「……ッ 親の理想に応えるのが子の義務だ! 私は、何が何でも父上と母上の“期待(理想)”に応えねばならないんだ!!」
言い切った後、彼女は荒くなっていた呼吸を整えようと深呼吸をし始める。
そんなユズリハの言い分を、槐は片付けをしながら静かに聞いていた。
「言いたい事はそれだけだな?」
「じゃぁ今度は俺の言いたい事を言わせてもらうぞ」そう言って槐は立ち上がり、スゥ……と息を吸う。
一拍置いて、口を開く。
「クスノキってのが誰なのかは俺は知らねぇ! ……だがなぁ、話を聞く限りじゃお前の親が“お前”をちゃんと見ているとはとても思えねぇっ! お前はユズリハだ、クスノキって奴にはどう足掻いてもなれるワケがない! それで?! お前は、ユズリハ・グローカスはっ どうしたいんだ!!?」
槐の口から放たれる怒号にユズリハは動揺する。
掴まれた両腕を解放しようと抵抗するも、そこは腕力の差からか、振りほどけない。紅く鋭い眼光は彼女を真正面から見つめており、視線を逸らす事を許さない。
「わ……、」
脳内は今、かつて親に言われた言葉が幾度となく響く。
『まぁ、学年トップ?! 凄いわ、さすが私達の子ね』
『この調子でこれからも頑張るんだぞ』
幼い頃、自分の成績を見て喜ぶ両親。
その喜ぶ姿をもっと見たくて、私は勉学に励んでいった。
「私は……。」
『常に学年トップを維持してて、リーダーシップがあって、私達にウソをつかない。グローカス・グループの跡継ぎとして理想的な子に育ってきたわね~』
母が私の事をメイドや執事に語るその顔はとても嬉しそうで、遠くで見ていた私はその笑みを見て口元を綻ばせていたものだ。
その笑顔を見ていると、また頑張れる気がした。
『何、学年トップを逃したのか』
『まぁ……』
13歳のあの時、初めて学年トップを逃してしまったあの時。
両親の落胆した顔は今でも忘れない。
『クスノキの“代わり”にもならないなら私達の子になり得ない』
『私達の理想(期待)に応えてもくれない子供なんていらない』
明るい調子で言われた両親の言葉。
初めて知った兄の存在。
「――私、は……」
あぁ、そうだ。
親が見ていたのはクスノキ・グローカス。ユズリハ(私)じゃない。
今までずっと両親は、“ユズリハ(私)”ではなく“クスノキ(兄)”を見ていたのだ。
ずっと、私は――
ぽたり、と雫が落ちる。
気が付けば自分は泣いていた。頬には幾筋もの涙が流れ、止めたいのに止まらず、次々と涙が流れていく。握っていた剣も霧散し、相棒は元の光球に戻っていた。
ぱたぱたと零れる涙を見られまいと、ユズリハは顔を俯かせる。槐も彼女の腕を解放し、バツが悪そうな調子で言葉を紡ぐ。
「悪かったな。結構まくし立てちまったし、混乱しただろ。」
そう言って槐はまるで子供をあやすかのように、ユズリハの髪を撫でる。
「だが、一度よく自分の事は考えておくべきだぞ。考えて、見直して、整理しときな。」
「……あぁ……」
不意に響く着信音。音の元はユズリハの携帯で、見れば執事長から電話がかかっていた。
『お嬢様、なかなか帰ってきませんが……いかがされましたか?』
「あ……大丈夫、ただ雨宿りをしていただけだ。ちゃんと帰宅出来るよ。……あぁ、わかった。それじゃ」
プツリと通話を断ち切る。
「…………」
静かになったリビングにて、ユズリハはこてりと槐の身体に身を預ける。
「ど、どうした?」
いきなりの事で驚いた槐はユズリハに尋ねる。
「……頼む」
ギュッとユズリハは、彼のシャツを掴みながら、ただ一言呟いた。
「――気分が落ち着くまで、もう少しこうさせてくれ…」
「わかった。気が済むまでそうしてろ」
その右手はユズリハの髪を撫で、左手は彼女の身体にそっと手を添える。
(あぁ、そうか)
静寂の中、涙を流すユズリハは一つの“感情”を自覚する。
(私はこんなにも)
――この男に惹かれてしまっていたのか
******************************
気づいてしまった、その感情の名は
親の理想を押し付けられ、半ば言いなりとなっていたユズリハ。
槐は誰も指摘してこなかった「自分自身が何をやりたいのか」を言われ
ようやくユズリハはこれまで務めていた事が「ユズリハとして」なのか
「クスノキの代わりとして」なのか。
親が見ている自分は「クスノキの代わり」であること。
同時に、自分を「ユズリハとして」見て、受け入れてくれる人がいる事を
理解するようになります。
が、結果としてはかなりグダグダな内容になってしまったような……
重要な内容の所をグダグダにしないようにするにはどうすればいいのだろう
暑い日差しが照りつけるこの次期。大学生であるユズリハ・グローカスは、怪訝な面持ちで一つの封筒を見つめていた。
――春学期成績通知書。
期末試験も終了してから暫く、このように自宅に通知書が届いたという具合である。ユズリハは硬い表情のまま慎重に封を開け、中身を確認する。明朝体で記された成績は“優”の字で殆ど埋められており、経営学のみ“秀”の字が表記されていた。
ひとしきり成績を確認した後、ユズリハは得意げな表情で息を吐く。
「経営学の“秀”を除いては皆“優”か……フン、当然だな」
余裕の表情を浮かべ、ユズリハは通知書を片手に私室を出た。成績を確認したら両親に報告するのが彼女の長年の習慣なのだ。極力廊下を走らず、だが足早に両親の部屋に向かう。
「父上、母上。失礼します」
コンコンとドアを数回ノックし、扉を開け、ユズリハは明るい表情で両親の元を訪れた。父は多数の新聞を広げ内容を把握し、母はそんな父の向かいで紅茶をすすっている。
「どうしたユズリハ」
「春学期の成績通知書が届きまして、こちらも確認出来たため報告を……」
「まぁっ それで、どうだったの?」
パッと笑みを浮かべて母はユズリハの方に顔を向ける。父も、新聞に向けられていた視線をユズリハに移していた。
「はい。全体的に“優”で埋められ、経営学は“秀”を取りました。良・可・不可等は無く、受けた授業は全て単位を修得致しました。こちらが実物の通知書です」
そう言って彼女は父に成績通知書を手渡す。手渡されたそれを、父はじっくりと確認する。30秒ほど経過しただろうか、父は視線を成績通知書からユズリハに移し、口を開いた。
「……そうか」
「この程度しかいけなかったのか」
「――え…?」
父の言葉に、ユズリハの表情が固まる。
それに畳み掛けるかのように、母も苦笑しながら口を開いた。
「本当。“秀”を一つしか取れなかったなんて……“優”で満足してるなんてダメよぉ?」
「あぁ、全て“秀”を飾るとかでなければ認められるものではないよな」
「クスノキならいけたでしょうねぇー」
「だな」
『はははははは』
両親が会話をしてる中、ユズリハは引きつった笑みを浮かべて彼等に言う。
ズキズキとした頭痛を堪えながら。
「……そ、そうです、よね……このレベルで満足していたら、いけませんよね。また、私室に戻って……勉学に励みます。――失礼、致しました」
極力二人に背を見せない形をとりながら、彼女は部屋から立ち去った。流れるようにそのまま、足音を立てずに歩を進め、私室に戻り、勉強机に向かう。
教科書を広げ、ルーズリーフを出し、シャープペンシルを手に取るが、そのシャープペンシルに芯が入っていない事に気づく。ケースを確認するが、それも空っぽ。
「あ……」
「芯、買ってこないと」そう言ってユズリハは貴重品を片手に席を立った。
窓越しに見える空は先程までの晴れとは打って変わり、陰りを見せていた。
行きつけの文具店に向かう道中の足取りは重く、時間も長く感じられた。視界に映る景色もコレまでの鮮やかさはなく、モノクロに見える。
ポツ、ポツと、冷たい感触を覚える。空を仰げば、灰色の空からポツポツパラパラと雨が降り注がれていた。時間を王ごとにその勢いは増し、「何? 雨?!」「うわー傘持ってきてねぇよ俺」「サイアク~」といった周囲の会話がユズリハの耳にも届くが、彼女にとってはどうでも良かった。
立ち止まっていた彼女の脳裏に、親の言葉が響く。
「クスノキならいけた」
親の口から出たのは、とうの昔に逝去したユズリハの兄の名前。雨脚が強まる中、ユズリハは視線を落とす。
「――クスノキなら、か……」
彼女の口から出た言葉は、とても小さく、聞き取りにくいもので。体は雨に濡れて冷えていくのに、頭はズキズキと痛み熱を感じられる。
「クスノキ、なら――」
思考は霞み、その表情も虚ろと化していく。
不意に、降雨の感触が途絶えた。同時に感じたのは、一つの気配。
「何やってんだ?」
ユズリハに声をかけたその人物は、彼女が最も会いたくなかった人物で。
その“男”は黒の傘と買い物袋を提げ、彼女の後ろに立っていた。
「まったく、傘も差さないわ屋根のある所へ避難しないわ、風邪引いても知らんぞ」
そう言って、ユズリハに声をかけた男……龍宮槐は自分が借りているアパートの一室にユズリハを連れて行く。彼女に表情は無く、その様子に眉をひそめながらも槐は彼女にタオルを渡した。
「それ使って髪を拭いとけ。あと上着、ずっと着けたままじゃ余計に冷えるだろうからハンガーに掛けとくぞ。」
「……あぁ……」
槐の言葉に、ユズリハは素直に応じて彼に濡れたジャケットを手渡す。いつもの彼女なら「断る」「貴様の言葉に応じると思うな」と言っている所なのだが。その反応に違和感を覚えながらも、槐は渡されたジャケットをハンガーに掛け、ついでに自分のコートも掛けていく。その間、ユズリハは渡されたタオルで自身の髪を拭いていく。
「で? あの雨の中傘も差さずに何であんな所で突っ立ってたんだ?」
「――考え事をしていた」
「何を?」
「……貴様には関係の無い事だ」
槐の質問に答えるユズリハの声は小さい。掛け合い自体はいつも通りなのだが、その反応が弱弱しい印象を覚え、槐は軽く息を吐く。
「そういえば、成績通知書が届いたな。どうだった?」
彼の何気ない一言に、彼女の体がビクリと反応を示す。
「――成績が関係してるのか?」
ユズリハの反応を見て槐は言う。その言葉にもまた「貴様には関係の無い事だ」と言って、彼女は顔を背けた。
沈黙が続く。程なくして、ユズリハがぼそぼそと口を開いた。
「……“秀”が、一つだけ……」
彼女の言葉を、槐はただ聞く。
「……それ以外は、皆“優”だった」
「――? 一般的には充分優秀な成績じゃないか? それ」
ユズリハの言葉に、槐は呆れた調子で返す。確かに、一つだけの“秀”を除いて全て“優”というのは、一般的には充分なものだろう。
「貴様なら……この程度で満足するのだろうが、私は後にグローカス・グループを纏め上げなければならぬ存在だ。この程度で親に認められるほど緩くは無い」
「つまり、親が満足するような成績になれずあそこで意気消沈してたってワケか」
槐は端的に状況を理解する。その言葉に対し、ユズリハは顔を赤らめながら反論する。
「い……っ 意気消沈などしておらんわ! ただ、その……自分の不甲斐なさに悔しさを覚えて、そのっ」
「あぁ、うん。無理して反論しなくていいぞ」
ユズリハの反論を、槐は軽く聞き流す。2個のマグカップにポットで淹れた緑茶を注ぎながら、槐は言う。
「つーか、それで満足しない親も親だろ。下手に期待しすぎると子供にプレッシャーがかかる事を知らないのか?」
「……プレッシャー云々は関係ないだろ」
「あるよ」
片方のマグカップに口をつけながら、槐はユズリハにもう片方のマグカップを差し出すが、ユズリハは拒否を示すために頭を振る。
「現にアンタ、親の話になるとちょいちょい頭痛を訴えてるじゃねーか」
槐の言葉に、ユズリハは固まる。彼の視界には映っていないが、彼女の相棒である光球は、ユズリハと槐を交互に見つめており、不安な雰囲気を醸し出している。
「いきすぎた期待に押し潰されて、その頭痛が発生してるんじゃ――」
「違うッ!!」
ユズリハの咆哮と同時に、彼女に差し出されていたマグカップが縦に壊れた。
持ち手と繋がってなかった部位はガシャンと音を立てて割れ、満たされていた緑茶はフローリングの床にぶちまけられる。ユズリハの手には鋭利な剣が携えられ、荒い息を吐きながら彼女は槐を睨みつけていた。
「違う……違う……っ」
その手は、カタカタと震えながらも剣の柄をしかと握り締めている。自分の正面に切っ先が向けられているわけなのだが、槐は表情を変えずにしゃがみこみ、マグカップの欠片を回収し始める。
「……義務なんだ」
ユズリハの言葉に、槐は眉間に皺を寄せる。剣を握り締める彼女の顔は真剣で。
「両親は……クスノキを、理想の子供を求めているんだ……。」
「――“クスノキ”?」
「私はあの方達の子だ。両親が望んでいるのならば、それに応える必要がある」
何故私はこんな奴に、自分の事を話しているのだろうか。ズキズキと苛まれる頭痛に耐えながら、ユズリハは自分の言葉を紡いでいく。
「……ッ 親の理想に応えるのが子の義務だ! 私は、何が何でも父上と母上の“期待(理想)”に応えねばならないんだ!!」
言い切った後、彼女は荒くなっていた呼吸を整えようと深呼吸をし始める。
そんなユズリハの言い分を、槐は片付けをしながら静かに聞いていた。
「言いたい事はそれだけだな?」
「じゃぁ今度は俺の言いたい事を言わせてもらうぞ」そう言って槐は立ち上がり、スゥ……と息を吸う。
一拍置いて、口を開く。
「クスノキってのが誰なのかは俺は知らねぇ! ……だがなぁ、話を聞く限りじゃお前の親が“お前”をちゃんと見ているとはとても思えねぇっ! お前はユズリハだ、クスノキって奴にはどう足掻いてもなれるワケがない! それで?! お前は、ユズリハ・グローカスはっ どうしたいんだ!!?」
槐の口から放たれる怒号にユズリハは動揺する。
掴まれた両腕を解放しようと抵抗するも、そこは腕力の差からか、振りほどけない。紅く鋭い眼光は彼女を真正面から見つめており、視線を逸らす事を許さない。
「わ……、」
脳内は今、かつて親に言われた言葉が幾度となく響く。
『まぁ、学年トップ?! 凄いわ、さすが私達の子ね』
『この調子でこれからも頑張るんだぞ』
幼い頃、自分の成績を見て喜ぶ両親。
その喜ぶ姿をもっと見たくて、私は勉学に励んでいった。
「私は……。」
『常に学年トップを維持してて、リーダーシップがあって、私達にウソをつかない。グローカス・グループの跡継ぎとして理想的な子に育ってきたわね~』
母が私の事をメイドや執事に語るその顔はとても嬉しそうで、遠くで見ていた私はその笑みを見て口元を綻ばせていたものだ。
その笑顔を見ていると、また頑張れる気がした。
『何、学年トップを逃したのか』
『まぁ……』
13歳のあの時、初めて学年トップを逃してしまったあの時。
両親の落胆した顔は今でも忘れない。
『クスノキの“代わり”にもならないなら私達の子になり得ない』
『私達の理想(期待)に応えてもくれない子供なんていらない』
明るい調子で言われた両親の言葉。
初めて知った兄の存在。
「――私、は……」
あぁ、そうだ。
親が見ていたのはクスノキ・グローカス。ユズリハ(私)じゃない。
今までずっと両親は、“ユズリハ(私)”ではなく“クスノキ(兄)”を見ていたのだ。
ずっと、私は――
ぽたり、と雫が落ちる。
気が付けば自分は泣いていた。頬には幾筋もの涙が流れ、止めたいのに止まらず、次々と涙が流れていく。握っていた剣も霧散し、相棒は元の光球に戻っていた。
ぱたぱたと零れる涙を見られまいと、ユズリハは顔を俯かせる。槐も彼女の腕を解放し、バツが悪そうな調子で言葉を紡ぐ。
「悪かったな。結構まくし立てちまったし、混乱しただろ。」
そう言って槐はまるで子供をあやすかのように、ユズリハの髪を撫でる。
「だが、一度よく自分の事は考えておくべきだぞ。考えて、見直して、整理しときな。」
「……あぁ……」
不意に響く着信音。音の元はユズリハの携帯で、見れば執事長から電話がかかっていた。
『お嬢様、なかなか帰ってきませんが……いかがされましたか?』
「あ……大丈夫、ただ雨宿りをしていただけだ。ちゃんと帰宅出来るよ。……あぁ、わかった。それじゃ」
プツリと通話を断ち切る。
「…………」
静かになったリビングにて、ユズリハはこてりと槐の身体に身を預ける。
「ど、どうした?」
いきなりの事で驚いた槐はユズリハに尋ねる。
「……頼む」
ギュッとユズリハは、彼のシャツを掴みながら、ただ一言呟いた。
「――気分が落ち着くまで、もう少しこうさせてくれ…」
「わかった。気が済むまでそうしてろ」
その右手はユズリハの髪を撫で、左手は彼女の身体にそっと手を添える。
(あぁ、そうか)
静寂の中、涙を流すユズリハは一つの“感情”を自覚する。
(私はこんなにも)
――この男に惹かれてしまっていたのか
******************************
気づいてしまった、その感情の名は
親の理想を押し付けられ、半ば言いなりとなっていたユズリハ。
槐は誰も指摘してこなかった「自分自身が何をやりたいのか」を言われ
ようやくユズリハはこれまで務めていた事が「ユズリハとして」なのか
「クスノキの代わりとして」なのか。
親が見ている自分は「クスノキの代わり」であること。
同時に、自分を「ユズリハとして」見て、受け入れてくれる人がいる事を
理解するようになります。
が、結果としてはかなりグダグダな内容になってしまったような……
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年齢:
34
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女性
誕生日:
1990/03/09
職業:
一応学生
趣味:
色々
自己紹介:
幼い頃からの任●堂っ子。
闇の探検隊をプレイ中。
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