【ブイグエラ】死期を感じた男の話 2013/11/06_Wed_22:18

それは６年くらい前の事

　とある戦場にて置き去りにされた青年の話

　……あー



　空、青いな



　じくじくとした痛みと、言葉では表現しにくい熱がオレの腹部を支配する

　――ああ、もうオレ死ぬのかな



　腹を押さえていた手がみるみるうちに赤黒く染まっていく
　痛いはずなのに、傷口が熱を持って熱いはずなのに、思考は妙に冷静で不思議な感じだった
　魂って言うのが本当にあるのなら、この段階でもうオレの体から抜けそうになってるのかな？



　そんな事を考えていると、自分がいる場所に近づくような足音が聞こえた



　この荒れ果てた戦場には不釣合いな姿をした女の子

「ああ、キミは……」

　魔法少女、って言ったっけ
　光の国と闇の国、両方に存在する異世界から来た協力者
　何度か対峙した事あったけど、その度に逃げたり、命拾いしたっけな



　なぁ、お前は“美徳”と“大罪”どちらで呼ばれてるんだ？　見た目だけじゃ判断出来ないんだ

　……そうか、“美徳”か……てことは、形としては“敵”になるのか……
　そうなんだ……

　……どうした？　ああ、コレ？　戦場だからね、負傷とかそう言うのは仕方ないよ

　ああ、手当ても大丈夫。何かもう助からない気がするからさ
　それにキミは立場上オレの敵だから、しない方が良いよ。キミの立場が危うくなるだろ？　その治療手段は、キミの味方に使ってあげな

　……そうだな、立場上敵になるキミに
　もし、可能ならお願いがあるんだ。こんな状態で頼み事とか、申し訳ないね
　うん、お願い。

　『オレを殺して』

　オレと対して歳に差のないキミにお願いするのもどうかと思ってしまうけど、頼む
　……
　まさか了承してくれるとは思ってなかったや、優しいんだね、ありがとう

　……遺言はあるか、か……考えた事なかったな

　そうだなー……遺言ではないけど、唄を聴いてもらえないかい？
　昔から唄を歌うのが好きでさ、生まれ育った町でもこの戦場でも時々周りに披露してたんだ
　聴いてくれる？　そう、ありがと



　――ゴメンね、ただのアカペラになっちゃって。本当は楽器とか持って行きたかったけど、こないだ上司から取り上げられたばっかでさー
　良い唄だった？　ありがと、コレ最近作った奴だけど自信作だからそう言ってもらえると嬉しいね

　あー、これ。シズクにも聞いてもらいたかったなー……

　シズク？　あ、オレの弟の名前。
　ちょっと危なっかしい所もあるけど、明るくて賢くて、自慢の弟なんだよ
　唄を教えたら才能があるのかどんどん上達していってさー、新しい唄を思いついたらその度にアイツに教えてたんだ
　懐かしいな……まだ、半年くらいしか経ってないのに

　あ、悪いね色々喋っちゃって
　そちらにはそちらの時間ってのがあるのにな、悪ぃ悪ぃ
　じゃ、……まだ若いのに、無理させてごめんな



　視界が霞む

　感覚も、徐々に薄れていく

　痛みも、熱も、思考も、無くなっていく

　死ぬんだな、オレ。殺してもらったって言うのにこんな感覚でいるのも変だろうけど
　ごめんな、魔法少女。たかが一兵の願いのために、無茶させて
　そういや名前聞いてなかったな、何て言うんだろ？　ま、聞く事ももう出来ないから。いっか

　こんな戦争終わらせて、シズク達には平和な世界を生きて欲しかったんだけどな



　オレが死んだ後の世界は、戦争の無い世界になれただろうか？

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　セッカ・レクルソ　戦死　享年18歳

　　※魔法少女時代のきららさん（の存在）をお借り致しました！！