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ポケダン(探検隊)チーム『シノギリハ』・『マシュマロ』・『ひだまり』・『カクテル』のネタを殴り書くそんなブログ。
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ある女性の死について



 *****
ある店長の独白
「このバイトを辞めたい」
 彼女がそう言ったのは4月14日のこと。
 理由は問い詰めなかった。彼女の年齢なら就活も本格化するし、そういった理由でバイトを辞めるやつが出てくるのは正直予想はしていたから。
 彼女自身から何となく「理由は聞かないで」という雰囲気も感じ取ったからでもあるんだけど。
「……そうかい、そいつは寂しくなるね。達者でやるんだよ?」
 そう見送ると彼女は「お世話になりました」と一礼して、店を出た。

「……こんなことになるなんてね」
 4月20日に流れる報道の画面を眺めながら、アタシはそう呟いた。
 頭の隅で、4月15日のパーティーで遭遇した彼女の笑顔を思い出しながら。

ある常連の忠告
 俺がよく行く喫茶店の従業員が死亡したというのを知ったのは、休憩時間に見ていたニュースでのことだった。
 俺以外でも店に行っていたヤツが何人かいた為、プレハブの休憩スペースでわずかにざわめきが発生する。
 「オイ確かこの子って――」「マジかよ」「若いのに……」「ひでぇ話があったもんだな」口々に言葉が紡がれる中、俺は静かにプレハブを出た。
 仕事場からさして遠くない通いの喫茶店は、いつもとはまた違った静けさを感じ取れた。
「例の報道のおかげで、結構まいってるんだけど。アンタはいつもと変わらないね」
「生憎と、人の死には慣れちまってる身なんでね」
 コルコの軽い嫌味に対し、俺は平然と返しながら、いつものように食事とコーヒーを注文する。
「一週間ほど前に彼女から『やめたい』って言われたんだけど……こんなことになるなんてね」
 寂しいものさ、そう言いながら彼女は注文した品をカウンターに差し出す。
 いつものように食事を進める中、俺はある人物の呪いについて思考を巡らしていた。
 槐の中にある、【侠客】の呪い。
 ヤツの口からは「その筋の奴らを引き寄せる呪い」と聞いているが……まさかな。
(何も知らないままでいればいいけど)
「槐の事、ちゃんと見ておけよ?」
「? 何だい、唐突に」
 俺の発言に、コルコは首を傾げる。
 そう言う反応をされても仕方ないか、俺はそう考えながら席を立ち、会計を済ませる。

「――アンタが思っている以上に、アイツは多分まいってるからよ」
 いつものように、何も変わらないまま。俺は一言つけてから店を出た。

ある学生の衝撃
 知藍が死んだ。それを知ったのは4月20日、昼食を済ませ食器を片付けようとしていた時の事。
 その日は珍しく午後から出勤というシフトだったため、久しぶりに家でテレビを眺めながら昼食を摂っていて。そんな中見ていた報道番組である女性の遺体が発見されたというニュースが映し出された。
 判明された身元の名前を見た瞬間、手に持っていた箸がカランとテーブルに滑り落ち、音を立てる。
『あっれぇ~? この遺体の女ってよ、アンタの知り合いだよなぁ』
 傍らにフワリと現れたユカリが、嫌味ったらしく俺に尋ねる。
『お前の呪い、どういうものだか覚えているよな?』
 歪んだ笑みを浮かべながら、正面から此方の顔を覗き込んできた。
 【侠客】の呪い。
 “その筋の人達”を引き寄せてしまう呪い。
 そして、その呪いはやがて自分と縁のある人物にも影響を与えてしまう。
『早速、影響が出ているようで――』
「違う!」
 何かを言おうとするユカリに対し、食い気味に俺は否定の言葉を吐き出す。
『何が違うって? “違う”って否定するなら』
 笑みを浮かべたまま、ユカリは続ける。

『お前が出したその携帯電話は何だ?』

「――え…?」
 ユカリが指差す俺の右手には、確かに一台の携帯電話が握られていた。
 携帯の液晶は「送信完了しました」というメッセージを表示していて、そこで俺は誰かにメールを送っていたということに気付く。
『あっはははは! 何、気付いてなかったのか?! ああそうか、お前の自衛本能がその辺の記憶を無くさせてるのか。コイツぁ傑作だ!』
 あはははは! ユカリがわらっている。笑っている。嗤っている。
『……忘れるんじゃねぇぞ、ヤクザのガキ』
 ユカリはそう言って俺の後ろに回り、その右腕を俺の肩に回す。
『あの女はお前のせいで死んでいったってことを』
 ユカリは囁く。俺の心を容赦なく抉る言葉を。
『お前が孤独の道を歩まなかったせいで』

 俺の心を揺らがす一言を。
『お前のせいで』

ある狙撃手への通信
『その筋の組織で、変な動きは無かったか?』
 槐からそんなメールが来たのは4月20日のことだった。
「そんなもん、オレが知るかよ」
 正直に、短い返事を打ち込み、送信ボタンを押す。
 暫くして「送信完了しました」というメッセージが表示されると、オレはそっとメール機能を閉じた。

「変なヤツ」
 そう思いながら携帯電話を片付ける時、ホテルのテレビでは報道番組が流れていた。
 ある女性の遺体が発見されたという、死に対する報道が。

ある令嬢の警戒
 槐の同僚が亡くなったという報道を耳にしたのは、使用人の会話からだった。
 何でも、休憩時間にテレビ番組を見ていたらしく、女性の遺体が発見されたというニュースがそこで流れていたようで。私の話を聞いた使用人は「そんな……」と蒼褪めていた。
 そんな会話を終えた後、私は自室に戻りある男の呪いを思い出す。
 ヤツと親しい間柄に立つ男から聞いた、彼にかかっている呪いの事を。

「……バカが」
 思いつめてないといいが、そう思考を巡らせながら、私は窓の向こうにある天を仰いだ。



ある恋人の懺悔
 思わぬ客人が家に来たのは、4月22日の夜のこと。
 「話があるから来た」そう言って彼女は家の敷居をまたぎ、部屋に入っていく。
「……それで、話って?」
「貴様の同僚、亡くなったんだってな」
 「使用人から聞いた」そういって彼女……ユズリハは俺の正面に立って顔を覗く。

「まさか、“自分のせいで”とか思ってはないよな?」

 彼女から出てきた言葉に、俺の肩がビクリとはねた。
 そんな俺の反応を見てから、ユズリハはリビングに設置されているソファに座り込む。
『オイオイお前、このヤクザのガキのカノジョだったよなぁ???』
 冷や汗を伝わらせ黙りこくる俺に対し、姿を見せたユカリがいつもの歪んだ笑みを浮かべてユズリハに近づく。
『誰から聞いたかは知らねぇけどよ、良いのかなぁ? コイツは次から次へ“その筋”のヤツを引き寄せるんだぜ? そしてゆくゆくはコイツに縁があったヤツにも影響が現れるようになる……お前もその対象に入ってるって事だぞ???』
 ニタニタした笑みを浮かべるユカリは、左手を彼女の顎に添え、より近い距離で言葉を紡いでいく。
『お前確かいいトコのお嬢様なんだろ? 良いのかよ、ヤクザのガキと付き合っていて。コイツが引き寄せた輩にブキ壊される前に、さっさと別れちまった方が身のた――』

「うっさい、黙れ、見た目だけ槐もどき風情がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 突然の怒号と、鈍い衝撃音。
 吹っ飛ばされているユカリに、今の今まで空っぽだった彼女の右手に握り締められた長い刃物。
 その刃物は酷く見覚えがあった。彼女と初めて会った時に彼女が何処からともなく出した刃物だ。
『ちょ、ま……っ?! オイ、ガキ! 聞いてねぇぞ』

『コイツが“対象者”だって!!』

「――え?」
 ユカリの言葉に、俺はユズリハの方を見る。彼女は黙ったままだった。
 気が付くと右手に握られた刃物はなく、代わりに彼女の周りにフヨフヨと漂う光の球が確認出来た。
「私は貴様と話する気は無い。槐、私は貴様と話がしたいんだ。そんな所に突っ立ってないで此方に座ったらどうだ」
「え? あ……おう……」
 彼女の一言にハッとした俺は、慌ててソファの空きスペースに座り込む。
「……お前、呪い……」
「ああ。かけてもらった」
「は?」
「貴方を助けたいと思ったから」
 そう言って、ユズリハは俺を見る。金色の瞳が、俺の姿を捉えた。
「私が貴方の元を訪れたのは、私が対象者となった事を打ち明ける事と、一つの宣言をするためだ」
「――“宣言”……?」
「ああ」
 次の瞬間、フワリとやわらかく包まれる感覚と、わずかな体温。
 自分が彼女に抱きしめられていると認識するのはそれから少し後の事だった。
「?! ちょ、おま……っ」
「私は離れないからな」
 もがく俺に、ユズリハは一言述べる。
 その一言に、もがく俺の手は動きを止める。
「お前がどんな家の出身だろうが、」
 「お前がどんな呪いにかかっていようが、関係ない」俺を抱きしめる彼女の手に力が入る。
「私は貴方が好きだ。それは変わる事のない事実だ。離れたくない。」
 傍にいさせて。
 頭上に零れた、彼女の言葉。
「……ぁ……あ」
 それを引き鉄に、此方も紡いでいた。
 潜めていた、悲鳴の言葉を。

 泣いていた。叫んでいた。
 情けないぐらいに、悲痛な声を上げて。彼女の腕の中でただ泣いた。

「――怖いんだ」

 誰かが俺の呪いで傷付いていくかもしれないという事が。
 俺のせいでいなくなっていくかもしれないという事が。
 家族を、ライカを、コルコを、シバやチワ、不動を、大学で接点を持った人や喫茶店の客や同僚や土木作業現場のおっちゃん達を。
 そして、お前を。失ってしまう事が。
 ……耐え難い程に、怖い。
 俺が離れる事で大切な人が本当に助かるなら、離れるのが一番なんだと思った事は何度かある。
 でも、出来なかった。
 失う以上に、離れる事が怖かった。
 二度と戻れない状態になってしまいそうで怖かった。

 ユズリハはただ俺の言葉に耳を傾け続け、時々宥めるように髪を撫でる。
 それが心地よくて、また泣いて、弱音吐いて、吐き尽くして。
「離れたくない」

「愛してる」

「傍にいて」
 嗚呼、何て情けない男だろうか俺は。
 護ろうと思った女性(ヒト)に、こんなにも弱さを見せるなんて。
(――でも)
 たまには、こうやって己の弱さを晒すのも、悪くない。
「愛してる」
「私も」
「離れたくない」
「私だって、離れたくない」
「傍にいて」
「ああ、共にいよう」
 若干らしくないやりとりに、思わず苦笑する。
「約束な?」
 何となく。
 抑えていた何かがスッキリしたような、そんな感覚を覚えた。

******************************

 知藍さん(@奏出様)のご冥福を、お祈り申し上げます。
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