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ポケダン(探検隊)チーム『シノギリハ』・『マシュマロ』・『ひだまり』・『カクテル』のネタを殴り書くそんなブログ。
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零士シリアスパート



 *****
 それは開けてはいけない手紙。
 それは開けてはいけない過去の思い出。

「……あ……」
 あるアパートの3階。その部屋の住人である月ノ瀬零士は、テーブルの上に置いたモノを見て言葉をこぼす。テーブル上にはノートパソコンにUSBメモリ、一冊のノート、数冊の本、それらが自分の行動範囲に届くよう合理的に置かれている。
「どうしたんですかぁ? 零士さん」
 名目上“住み込みのアシスタント”として現在(半ば強引に)同居している少女・口無十色は買い出しで追加購入したオレンジジュースをコップに注ぎながら零士に問いかける。
「……資料を一つ……、部屋から取り忘れてしまったようです……」
「あらら~」
 そう言って、十色はいつもと変わらぬ調子で注いだジュースを口に含む。
「じゃぁ、取りに行きますよ。どこら辺にあります?」
 八分目ほどに注がれたジュースを半分まで飲んでから、十色は言いながら立ち上がる。
「え? ですが……」
「いいんですよぉ、今私は零士さんのアシスタントですから。少しくらいコキ使っていいですってぇ~」
「そ、そうですか……。えと、では……部屋の中の物置に、“資料”と書かれた棚が収納されてまして……その、その棚の中にある、背表紙が黄色の本を持ってきてもらえませんか……?」
「わっかりましたぁ~♪」
 十色は鼻歌まじりに零士の私室の引き戸を開け、軽い調子で入っていった。部屋の見た目は“殺風景”という形容に近しく、部屋を正面から見る限り文机と筆記具と布団しかなく、どこか寂しげな印象を覚える。部屋から入って右を見れば、もう一つの扉の傍にこぢんまりした襖が確認出来、恐らくこれが零士が言っていた“物置”なのだろうと、容易に推測出来た。
「あった。これかな?」
 “資料”と書かれた棚は襖を開けてすぐの所にあり、依頼された本もすんなり見つけられた。が……
(どうせ部屋に入ったんだから、もうちょっと見てみたいなー)
 ちょっとした好奇心が発生したのか、十色はもそもそと物置の中を見やる。日陰である事から多少薄暗いそれにあるのは、資料の棚を除いては少量の着替え(「……あ、ちゃんと着替えとかあったんだ」)にファンレターとその返信のコピーが整理されたファイルとそれ用の収納棚(「マメだなぁー」)、恐らく担当編集が持ってきたのであろう年齢制限があるDVD(「あ、どれも未開封だー。ちゃんと見てあげないとダメですよー」)と……面白いものはなかった。
「(これといったモノは無いんですね~)……ん?」
 物置を探っていると、資料棚で死角になりそうな隅に置かれた黒いプラスチックケースを目にする。丁寧に蓋をされたそれは僅かにほこりを被っており、一定の期間物置の中で放置されているものと考えられた。
「? 何だろコレ」
 プラスチックケースを両手で持ち上げ(想像より軽かった)、表面のほこりを払い、中身を確認する。ケースには大量の手紙が収納されていた。しかし、ファイルに整理されたファンレターと違い、こちらは見たところ開封された形跡が見られず、いずれも同じ人物から郵送されたもののようだ。
 差出人の名前は
「きのした、まい か……?」
 “木下麻衣香”という差出人からの手紙に興味を抱いたのか、十色はいけないと思いつつも封筒を閉じるシールをそっと剥がし、静かに中身を抜き出し、広げた。内容は小説家・月見雨令へのファンレターのようだが、彼の本名である月ノ瀬零士で始まっている。


  月ノ瀬零士君へ

  『零の月』を拝読した瞬間、貴方が執筆してものだと理解出来ました。
  もし人違いでしたら申し訳ございません。
  この作品を書店で見かけ購読した時、貴方の苦悩を感じ取りました。……辛かったのね。

  出版された日を見て、貴方がひだまり園を出て行ってから3年近くになったことを実感しました。
  あれから祐造さんと結婚して、姓も“木下”に変わり、今では子宝に恵まれ育児にひだまり園の
  管理にとてんわやんわな日々を送っています。
  零士君は今、どんな日々を過ごしているのでしょう? 素敵な人と恋をしていたりするのでしょうか。

  貴方からは出しにくいのかもしれないですが、たまにお手紙を下さると嬉しいです。

  木下(旧姓:釘宮)麻衣香


「口無さーん、」
 カタリと物音が一つ。
「頼んだ資料、見つかりました か――」
 おずおずと部屋に入ってきた零士はいつまでも戻ってこない十色に声を掛ける。彼女が持っている物、傍らにある物を発見するや否や伏し目がちな目が見開かれ、乱暴に手紙を奪い取った。
「……読んだのか?」
 いつもの敬語口調は消え去り、黒の瞳は彼女を睨むように細められ、声も低く怒気のこもったものへと変質していく。今までと違う雰囲気に若干怯んだのか、十色の小さな肩がピクリと跳ねた。
「よ……読みました……」
「俺がお前に頼んだのは資料を見つける事だよな? その手紙を、読む事は仕事の内容に無いよな?」
「は、はい……」
 感覚にして数分、実質にして数秒の静寂が部屋を包んでいく。
 先に口を開いたのは、零士の方だった。

「――何て、書いてありましたか……?」

「え?」
 その口から出たのは、いつもの、どこか弱々しさを感じさせる零士の口調。十色はポカンと口を開けたままだったが、頭を振ることで正気に戻り、言葉を紡ぐ。
「え、と……作品の感想とか、日常の事とか、あと……」

「『貴方からは出しにくいのかもしれないですが、たまにお手紙を下さると嬉しいです。』って」

 彼女の口から出た言葉に、零士は瞬間目を見開き、次に安心する何かがあったのか、ひきつっているもののその口元は綻び、その場に座り込む。
「そ、そう……ですか……。……良かった…………」
 そう、零士が言う。
「それでー? この“木下麻衣香”さんって、誰なんですか?」
 十色が軽い調子で質す。それに対して零士は苦笑したが、先程よりも毒気が抜けたのか、どこか柔らかな印象を抱かせながら答えた。
「――自分が、昔好きになった女性です」



 自分が3歳くらいの時に親を事故で亡くしまして、母方の伯父夫婦に引き取られたんです。
 ですが、伯父達は親が残した遺産だけが目当てで……自分のことはまともに育ててくれませんでした。
「遺産って……お父さん達、何をやっていたんですか?」
 何分20年以上も前の思い出しかないので……その辺はよくわかりません。
 解っているのは伯父達は自分に興味はなくて、泣けば暴力を振るわれ、満足な食事も与えられず、育児放棄もされていたという事だけですね。それが3年近く続きました。自分でもよく耐えれたなと思っています。近所の方が不審に思ったのでしょう、その手の機関に連絡してくださりまして……遺産の半分を伯父達に渡す事で自分は無事生き残る事が出来ました。
 自分が次に引き取られた先が保護施設の“ひだまり園”、そのひだまり園を管理していたのが麻衣香さん……その手紙の差出人です。

 引っ込み思案で、消極的な自分でしたが……彼女のお陰で明るくなれて、少しずつ他者との交流も出来るようになったんですよ。
「今の零士さんのどこに明るい所があるんですか?」
 ……小学校の途中までは明るかったんですよ、今はこんなのですが。
「それで、その辺りから麻衣香さんのことを好きになったんですかー?」
 ――いえ、彼女に対して恋心を抱きだしたのは、中学の辺りです。
 それより前に、自分に一つ“問題”を抱え始めまして……。
「“問題”……?」

 ……“呪い”、ですよ。

「のろ、い……」
 えぇ。
 自分が好きになった人は、自分以外の方と結ばれる呪いです。
「…………」
 ……自分の発言がどれほど愚かなのかは判りますよ? ですが、本当なのです。
 初めて好きになったクラスメートの女子も、読書クラブの先輩も、そして、麻衣香さんも……。
「麻衣香さんも?」
 はい。彼女への恋心を自覚したその日に、結婚を前提に交際し始めた男性を連れてきました。
「前々から付き合っていたんじゃなくって?」
 ええ、「今日から結婚を前提としてある人とお付き合いすることになった」とハッキリ報告されましたよ。……他の人達は二人を盛大に祝福してましたが、自分だけは心中複雑でして、静かに部屋を出て行きました。これ以上、その幸せそうな姿を……見たくなくて。
「……」
 そして、その日に自分は気付いてしまったんですよ。


 ――自分“呪い”が、自身の深い所にまで侵食してしまっている事に。


『やめて! 零士君っ どうして?!』
 その日、麻衣香さんとその恋人……木下祐造さんが談笑していた所に、フラリと自分は訪れました。祝福とは全く関係の無い、包丁を片手に。
 自分の呪いはいつの日か、好意を抱いた相手に対し、深い殺意、激しい破壊衝動を感じるようになっていたようで……その衝動に流されるがまま二人を襲いました。「どうせ手に入らないなら、この手で壊して“自分だけのもの”にしてしまえばいい」と、歪んだ独占欲を露にして……。


「二人は……どうなったんですか?」
 自分は二人を包丁で切りつけましたが、幸い傷も浅かったようで、無事でした。
 ただ……切りつけた事で正気を取り戻した自分は、自分が何をしたのかを理解し、怖くなって……逃げるようにひだまり園を出て行きました。

 少なくとも、ビオスシティに辿り着いてしばらく経つまでは、自分に心の安寧などなかった。
 常に人の目を避けながら行動し、悪漢からは必死で逃げ惑い、警察からも身を隠し。自分の事なんて誰も知らない、声を掛けない、捜さない、そんな場所に行き着くその時まで、まともに眠れる事もなかった。
 また、女性との接触も極限にまで避け、人目に触れないよう部屋に閉じこもって――

「――こうして、今自分はこの場にいるわけです」
 「実に下らないでしょう?」零士は自虐する。正面で彼の顔を見つめながら話を聞いていた十色の表情は、いつもと同じで、しかし話に興味は無いようで。
「……ご飯、用意しますね。」
 気が付けば時計の針は夜の7時に差しかかろうとしており、彼女は立ち上がり、台所へと赴いていく。
 残された零士は、同じく放置されている手紙の傍らで呆然としていたが

「…………ありがとう、ございます」
 彼女なりに気を遣ってくれたのだろう、そう解釈した零士は軽く息を吐いて。
 小さく、とても小さく、感謝の言葉を紡いで部屋を後にした。

******************************

 十色さん(狐笛様宅)お借りしました!


 ※麻衣香さんの手紙はその後零士の手によりちゃんと片付けられました。
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